台湾大佛列伝6




送天師/台南





久し振りの台湾の旅である。

大晦日の旗津の高価シーフード地獄にビビった私はあくる日の元日、古都台南に向かった。


旅のリハビリがてら古い街や美味いものや買い物などを楽しもう、という寸法である。


で、バスに乗っていたらバスの脇に巨大なモノが現れたのだ。




何か虫のような形状のつくりものの上に人が何人も乗っている。

その虫の頭部のキモチワルさと派手な飾りとその周りに大勢の人が集まっている様子に「これは只事ではないっ!」と判断し、すぐにバスを降りることにした。


この時点で本日の観光や買い物の予定は消し飛び、この奇妙な集団を追跡する一日になるのであった。<




バスを飛び降りると先程の巨大なモノはどこかにいなくなっていた。

代わりに派手な飾り付けをした車の上にポールダンスのステージが組まれていて、傍らには天女のような恰好をしたお嬢さんがいるではないか。




その背後にはこれまたド派手に飾られた車や農耕車、山車や楽団など奇妙な出し物が次から次へと現れる。

「一体何だこれは!」という思いは一旦封印し、この謎に満ちた集団の全容を把握することに務めた。




もちろん先程の虫のような巨大なモノの行方を捜しつつ。




集団は派手な先頭車両、山車や神輿、派手な音楽を鳴らす楽団、大人形、獅子舞、アイドルばりの若い女性ダンサー集団などで構成されている。








その他、旗や幟を掲げる人や大量の爆竹を鳴らす人やその行列を構成する人達に提供する食料を積んだ車などもいた。











しばらく集団について歩いていると、ついに最初に見かけた巨大な虫のようなモノに出会ったのだった。




それは無数の手が生えているムカデの形をした山車だった。

この山車は蜈蚣陣といって色々な祭りに出現しているそうだ。



胴体の部分は12台の車両が連結されていて、その側壁にもムカデの胴体が描かれている。

更に尻尾の部分には尻尾のつくりものが付けられていて、長い山車全体で巨大なムカデを象っているのだった。

各車両には一人づつ扮装した子供達が動物に跨っていて飴玉を周囲の人に投げる事になっている。丁度休憩時間だったのだろう。

昔の貴族のような恰好をした山車の上の子供たちはひたすらスマホでゲームをしていました…。




しばらく蜈蚣陣に見とれていると次から次へと他のグループの行列がやって来る。

各グループは各地域の廟を信仰している「講」のような集団で、それが街中の様々な廟に参拝しながら街中を練り歩くという祭りのようだ。

ひとグループで50~100人位の規模である。

とにかく爆竹の音が凄い。






街角にある小さな廟の前に到着するとそれぞれのグループ自慢の踊りや演奏を披露していく。



路地の奥まった場所にある廟などは幾つかのグループで渋滞してしまい、手の付けられない混乱状態に陥っていたりする。





まるでフリージャズの巨匠、オーネットコールマンのソプラノサックスのソロのフレーズを彷彿とさせるチャルメラの甲高いインプルビゼーションが街のあちこちで交錯し、爆竹が鳴りまくる中でダンサーが踊るその様はまさに狂気乱舞




見ているこちらも脳の芯からジンジン痺れてきて気が遠くなってくるのだ。




後日、台湾在住の知人友人から聞いた話を総合すると、この祭りは送天師といって、ある廟の祭りがあると周辺の廟の関係者が主役の廟をはじめ近所の廟を参拝するというスタイルらしい。



今回の主宰は六合境馬公廟という廟で、この廟の天師が交陪境(付き合いのある区域の廟のグループ)を見送るから送天師というのだそうな。

入手した巡行表を見るとこの日は17のグループが39か所の廟を巡っている。




そのため台南の中心部は大量の蔡列にジャックされてしまったかのようだった。

この日出会ったグループは驚くべきことにほぼ全てが違う出し物だった。

とかく伝統的な様式を重視しがちな我が国の信仰シーンとはあまりにも違うそのオリジナリティの追及っぷりに心から感動してしまった。

台湾では信仰が現代の中でしっかり生きているのだ。






偶々だが旅の初日からあまりにもエネルギッシュな洗礼をくらってしまった。




この後どんな珍寺が待っているのだろう。楽しみで仕方がない。





次の珍寺にGO!

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