台湾大佛列伝6





一旨山千佛寺







台湾には数限りない奇想の寺廟がある。


実際私も20年以上前からこの国をウオッチしていて奇妙奇天烈摩訶不思議なところを数多く見てきたので、そのレベルの高さは充分承知していたつもりなのだが、今回、この寺を見ることで改めて「台湾、やっぱヤバい…」と認識するに至ったのであった。

その寺の名は一旨山千佛寺

雲林県にある仏教寺院だ。この寺を訪れる際に起点となるのは斗六という街。

台中のやや南に位置しており、これまでも何回か訪れたことがある。

駅前には戦後の闇市のような市場が続いているエネルギッシュな街だ。

そんな斗六の駅前でタクシーを拾い、一旨山千佛寺を目指す。

私が日本人だと判ると運ちゃんはすかさず美空ひばりの曲をかけてくれた。

昭和の記憶を濃厚に匂わせる斗六の郊外の光景と若い頃の美空ひばりの歌声が妙にシンクロ。

旅の疲れから少し微睡んでいると、ここが何処の国なのか、今は何時代なのかよく判らなくなってくる。




殺風景な空き地に車は停まり、浅い眠りから目覚める。

トタン屋根の建物と乱雑に積まれた建設資材と吠え狂う犬だけが目に映った。



え、ここがお寺なの?と思って振りむいた瞬間とんでもないモノが待ち構えていたのだった。

それは寺院の堂宇とはにわかには信じられない建物だった。



否、この時点では建物かどうかも良く判らなかった。



躯体はコンクリートなのだが、細かいヒダヒダが全体を覆いつくしている。



蛇腹のような、怪獣の肌のような、多肉植物のような、諸星大二郎のマンガに出てくる岩山のような、何とも表現し難い不思議な表面なのだ。


全体の雰囲気は香港の寺院などでよく見られる人造の築山にも似ているが、それにしてもこんなマチエールの建造物なんて見たことがない。




しばらく唖然として建物を見上げていたが、気を取り直して反対側に行ってみる。

今まで見ていた部分は裏側だったのだ。



築山の正面には巨大な龍が巻き付き、その上には金色に輝く神像が聳え立っていた。

見れば全部で4体いる。つまり四天王なのだろう。



裏側が比較的抽象的だったのに対して正面側は龍あり四天王あり寺号あり、と具体的な表現が多い。

今回の旅で見てきた巨像3体並び、のパターンでは強烈な中心性が生まれることが確認されたが、これが4体になった途端中心性が消失する事が判明。

トリオとカルテットでは随分違うものなのだなあ。




お堂の前では近所の人なのだろう。小麦を練って「何か」を作っていた。

お寺の敷地じゃないのか?ここ。

そう言えば入口が裏側だったり、お堂の前で近所の人が作業してたり、何か寺らしからぬ雰囲気だ。


正面の扉が閉まっていて中に入れなかったので再び裏側に戻り裏側の入口から中に入ってみる。





内部は洞窟風に仕上げてある。



所々に神仏の像が祀ってある。



目の光った虎が印象的だった。




柱にはたくさんの穴が規則的に開けられており、そこにコンクリの花が飾られており、華やかな雰囲気なのだが、数が多くてまるで柱と柱の間を縫って移動するような感覚だ。





外壁がメドゥーサみたいな、重さを支えることが出来ない建物なので、建物全体の加重を支えるために内部にたくさんの柱を配置したのだろう。




柱だらけの内部から正面を見ると、お堂の前には足場パイプが積んである。



普通お寺の前にパイプは置かない。

つまり、お寺の方が後に出来たのだろうな。


中央の祭壇には千手観音が祀られていた。



左右にいるのは日光月光菩薩だろうか。

柱の上部が花びらになっていたり、梁が擬木になっていたり、芸が細かい。

最後に逆サイドの出口から外に出て、堂内の参拝は終了となる。


ちなみに出入口には水が流れており、小さな橋が架かっていて、日常と非日常の境目を演出している。



堂内、裏側、前面とそれぞれ趣の全く違う世界観を見せてくれた素晴らしい仏堂であった。

台湾屈指の珍仏堂といってもいいかも知れないが、他にもたくさんヘンな仏堂がいっぱいあるんだよなあ。


改めて少し離れたところから見たらどうやら先程入った内部とは別に上の方に通路があるみたい。




堂内には上に行く階段とかなかったのに、不思議だ。


…もしかして外壁のウネウネをよじ登るのではないだろうな…



(後日談:写真を確認したら正面入り口入ってすぐ左右に上階へ至る入口が見えた。正面の門が閉鎖されていたので見落としたのだ。残念なり)


また再訪して上階に登ることを心に誓ったのである。



次の珍寺にGO!

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