供養絵額/岩手県遠野市


まずは下の絵を御覧頂きたい。

遠野の幾つかの寺にはこのような不思議な絵が数多く掲げられている。

これは亡くなった人への追善供養のための絵馬のようなもので、大きさは一般的に縦60〜80センチ、横70〜100センチ程度の横長の板絵だ。

以前は特に呼び名もなかったというこの絵だが、平成13年、遠野市立博物館においてこの絵の展覧会が開催され、その際、供養絵額と名付けられた。

これにならってここでも供養絵額と称する事にする。

 

大きな特徴としては亡くなった人物の戒名が書き込まれている事。そして亡くなった人物の姿が描かれている事。そして何といっても亡くなった人物の菩提寺に奉納されるという事である。

 

それにしてもこの供養絵額、人気のない薄暗い寺の本堂の欄間にずらっと並んでいる光景は、鳥肌が立つ思いだ。同じように寺に奉納する供養絵として山形のムカサリ絵馬が挙げられるかと思うが、ムカサリ絵馬が冥婚、つまりあの世での仮想結婚式だけにテーマを絞っているのに対し、後に詳しく述べるが供養絵額は様々な生活シーンを描写している。その分、内容に多様性があるともいえる。しかし一方でムカサリ絵馬のように現代までその習俗を延命することは出来なかった。その辺の理由も後述する事にしよう。

ともかく遠野をはじめ北上地方の宗教観、他界観をあらわすこの供養絵額は日本における数少ない上質のフォークアートとして非常に重要な信仰形態と考えられる。その価値を認め世に広め、ついでに私のトコロにまで広げてくれた遠野市立博物館の努力と度量には感謝感激である。

 

遠野市立博物館の調査によると岩手県内に存在する供養絵額は北上盆地を中心に386点が確認された。その内7割近くが遠野市とその近在の東和、宮守に集中している。この事は遠野が供養絵額奉納が盛んであったという事実とともに今でも大切に保管(奉納)されている事を示していると思われる。

さっすが民話の里遠野、ということになろうか。

ついでにいうと遠野の供養絵額は他の地域のものと比べて情景描写が細かい。例えば盛岡近辺に見られる供養絵額は単に故人の肖像画だったりするが、遠野のものは背景の描き込みが細かい。つまり質量共に遠野が供養絵額のメッカといっていいだろう。

 

というわけで今回、遠野の供養絵額を見てまわって来た。点数が多いのでお寺ごとにページを分けました。

もっちろん供養絵額だけではなく民間信仰が生み出す造形、特に供養に関する形態に並々ならぬ関心を抱く私にとっては目からヨダレが出る程のインパクト大の信仰グッズなどもあり、遠野の民間信仰世界の奥深さをコレでもかという位キッチリ見せつけられる結果となったのはいう迄もない。

 

宮守村;長泉寺

 

小友町;常楽寺

    西来院

 

青笹町;喜清院

 

土 淵;光岸寺

 

遠野町;善明寺

    瑞応院

    柳玄寺

 

 

参考;「供養絵額」遠野市立博物館
2005.5.

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