油山寺(後半)/静岡県



遠州三山のひとつ、行基開創の由緒を持つ古刹油山寺。

しかし!

そこには世界一の巨大念珠や年弘法、はたまた謎の健康歩道など素敵なアトラクションが目白押しの珍寺であった。

しかし!

その先にはさらなる驚愕の光景が待ち受けているのであった。




というわけで、いよいよ本堂の薬師堂に向かう。


    




この薬師堂も元々は源頼朝が寄進、後に元文3(1783)年に再建されたものである。

それにしてもこのお寺は17〜8世紀の建物だらけだ。


本堂の階段の両脇に干し柿みたいに吊るされているのはぜ〜んぶ絵馬である。



何でわざわざ外に絵馬が吊るしてあるんだろう?せっかく参拝者が奉納したんだから本堂の中に置いてあげればいいじゃん。




などと思いつつ堂内に入ったら…







うおっ!



中もびっしり絵馬だらけでした〜。


    

何?この絵馬の量!

右を見ても左を見ても絵馬だらけ。壁面はもちろんのこと、柱にまで鈴なりになっちゃっている。こりゃ凄い!


    

もう、ありとあらゆるスペースに絵馬が掲げられているのである。


本尊は薬師如来。秘仏であり、その本尊が納まる厨子も重要文化財になっている。






千羽鶴もたくさん奉納されていた。





鬼気迫る量の絵馬だが、眼病平癒の祈願文も大量に奉納されている。


祈願文とは祈願の内容を歳の数だけ書いて奉納するというもの。

←こちらは標準タイプ。

69才、とあるので「め」の字を69回書いているのである。

これが例えば「十二指腸潰瘍平癒」103歳、とかだと、とんでもない大作になるわけです。


こちらは同じ装丁の用紙が何枚か束ねられている。

お百度参りのように何度も祈願文をしたためて、薬師サマに
本気度を示そう
、という考えか。

右の祈願文の丁寧な字に本気度が伺える。

一方、左に束ねられた祈願文はメモ用紙だったりノートの切れ端だったり、と様々。

それはそれで切羽詰った感がにじみ出ていて味わい深い。

こちらは先ほどもあった五円玉による「め」の字。

目はふたつあるから「め」の字もふたつ。

道理ですな。

一方こちらは上級者向け。

マス目に「め」の字を書き連ねるわけだが、空白のマスをつなげると「め」の字になる、というわけ。

パズルかっつーの。

コレ判りますか?

上のひし形状の空白の中に「め」の字を連ねて「め」の字を書いているんです。

同じように下の部分の三角形っぽい空白の中にも「め」で「め」の字が書かれている。

ふたつの大きな「め」の字の間に意味がわからないスペースがあるのだが、これはもしかして片仮名の「メ」の字なのか?

何でこんな手の込んだ祈願文を作るのか、真意は謎である。少なくとも俺が薬師サマだったら、面倒くさいからこーゆーのは…無視!

奉納者がそれぞれ思いを込めて絵馬や祈願文を奉納している。

フォーマットされた絵馬よりも見てくれは悪いかもしれないが、バラエティに富んでいる。

つまり緩やかな宗教的統制によってダイナミックな光景が生成されるのだ。

それが民間信仰の最も肝の部分だと思う。


こういうの好き。

そういえば子供のころ「め」と「ぬ」と「ね」と「わ」の字を書くのがすごく苦手だったのを今、急に思い出した。

その頃から俺って阿呆だったんだなあ。

あ、さらに思い出した!

今でも「ね」と「わ」は苦手です!エッヘン!


数えてみたら1行19文字、で、15行。

合計285の「目」の字。

285歳なんですね、的な突っ込みはナシにしましょう。

書いてる人は真剣なんです。


そういえば坂本竜馬と同い年のおばあちゃん騒動はどうなっちゃったんでしょう?



額の中は本当に裁縫したモノが納められている。

裁縫上達祈願かな?と思ってよく見たら裁縫の授業の内容やプロフィールなどが事細かに書かれている。

…要は裁縫教室の先生が「私、頑張って一生懸命教えてます」と薬師サマにアピールしている、という内容の額なのだ。

え?自慢?



こちらは明治35年に奉納された絵額。

その割には状態が良好だ。

横須賀の水兵さんが奉納したもの。

六隻の巡洋艦の図である。

他にも日清戦争の出陣式らしき絵額も奉納されていた。




そんな絵馬と祈願文と絵額と千羽鶴がひしめく堂内の片隅に強烈な奉納物があった。







せっ…蝉の抜け殻!!!


    

蝉の抜け殻を千羽鶴のごとく吊るしてあるのだ。

私もこれまで色々な奉納物を見てきたが、これほど強烈な奉納物を見たことが無い。

何の目的をもってこの「千羽蝉」を奉納したのだろう?


少なくともいえることは奉納した人は蝉の抜け殻をひたすら集め糸を通し、この千羽蝉を作り上げたのだ。

暑い季節、公園やお寺などを歩き回り蝉の抜け殻を拾い歩いたのだろうか…

そのシーンを想像するだけで、そら恐ろしくなってしまう。

その気力、執念。もはや芸術の域に達しているといわざるを得まい。

ひたすら(何の願いかは判らないが)願いを叶えるために一心不乱に祈願した結果なのだ。

まさに篤き信仰が生み出した信仰芸術




いや、作品とか芸術とか称することさえおこがましいのかもしれない。
だって最近の美術作品でこの千羽蝉を越えるインパクトの作品、見たことあります?私は無いです。少なくとも現代アートでは。





その他、堂内には赤ちゃん人形を抱いたお地蔵さんや撫でられすぎて怖い顔になったおびんずる様などが座していた。

    





驚愕の蝉の抜け殻奉納にこっちが抜け殻になってしまい、ふらふらと薬師堂を出る。

帰りは行きと違うややワイルドなコースのルートで戻ろう。


途中、弘法大師像などを見つつ下山する。





山中に突如巨大な仏像らしきものが。



むむむ。結構大きいぞ。10メートルはあろうか。

顔が良く見えないが不思議なポーズをしてるなあ。



で、寄ってみると…




























えええええっ!


どうですか。お客さん。コレは相当イイ感じだと思うんですけど。



…鎌倉時代の僧、栄西禅師のコンクリ像である。

栄西は臨済宗の開祖だが、どちらかというとお茶を日本に伝えた人として有名だ。


真言宗のお寺に何故に禅寺のお坊さんのコンクリ像が?などというなかれ。

何たって茶祖であり、ここはお茶処静岡なのだから。





高さは約10メートル。右手には茶の効能から製法までを記した「喫茶養生記」を、左手には茶種を持っているんだとか。


にしても、この喧嘩弱そうな感じ、如何だろう。誰とは言わないがチョット宇宙人ぽいすよね。

で、栄西の絵をググッてみたら確かにこんな感じなのね。

いやはやリアリズムだったとは恐れ入りました。




最後まで楽しませてくれるサービス満点のお寺だった。





2009.05.
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