山陰の札打ち習俗:1/島根県



山陰地方に札打ちという習俗がある。

これは死者供養のひとつで、紙札をお地蔵さんに貼っていくものだ。

当サイトの熱心な読者であれば、以前紹介した千葉県の四十九堂茨城県の百堂巡りを思い浮かべる事であろう。

山陰の札打ち習俗もそれらと驚くほど似ているのだが、微妙に違う所もある。


そんな不思議な札打ちの習俗を島根県と鳥取県に別けて紹介したいと思う。


てなわけで、まずは島根県から行ってみよう。



この旅で最初に札打ち習俗に出会ったのは安来市の清水という場所。



三重塔と羊羹で有名な安来清水寺(この寺も中々面白かったからそのうち紹介するかも)へと向かう道すがらに変形六差路の辻がある。

その辻に辻堂と公民館が経っている。

古い建物が並んでおり、日常からちょっとだけ逸脱したエアポケットのような場所だ。





そんな場所の一画に石仏が並んでいた。

そこに紙札が貼られている。

これが札打ちの紙札である。




紙札には南無地蔵大菩薩と書かれたものと南無大慈大悲観世音菩薩と書かれたものがあった。

他にも南無六地蔵菩薩と書かれた紙もあった。

多くの紙札には戒名も記されていた。

単に地蔵や観音への信仰というよりも死者供養に重きを置いているのは明らかだ。


ここから山陰の札打ちを巡る旅は始まる。

以後長い旅になるのでお覚悟召されよ。




次に訪れたのは安来市田頼。



路傍の地蔵堂にそれはあった。




ここの紙札は全て南無地蔵大菩薩と戒名の組み合わせ。

どうやらこの地方の札打ちは地蔵菩薩に対して行うのが一般的なようだ。





調べてみるとこの札打ち習俗、松江市内では六地蔵と呼ばれる場所に札を奉納しに行くのだとか。

松江市内に移動し、札打ちの現状を確認しに行ってみよう。



最初に訪れたのは市街南部にある舜叟寺

松江の六地蔵の1番札所だ。




境内の片隅にある地蔵堂。




地蔵の石像にびっしりと札が貼られていた。

松江の六地蔵に詳しいサイトしまねタンサックさんのサイトによれば新しく仏さんが出た場合、親族が連れだって六地蔵を巡り札打ちをするという。

それは四十九日までに済ませなければならないという。


松江市内ではこの舜叟寺を皮切りに六地蔵を巡っていくことになる。




石仏の隣にあるお堂の両サイドには扉が見えない位たくさんの紙札が貼られていた。




ここに貼られている札の文言はほとんどが南無地蔵願王菩薩だった。

先程安来市で見たものより、同じフォーマットの紙札が多いような気がした。




次に訪れたのは竜覚寺



松江市街の真ん中を東西に流れる大橋川の南に位置するお寺だ。




市街地に近く、こじんまりした寺だ。




その本堂入口の脇に札打ちがなされていた。


ここは六地蔵のうち、二番と三番の札所を兼務している。




この周辺には同じような規模のお寺が数多く密集している。

いわゆる寺町のようなところなのだが、他のお寺を覗き込むと幾つかのお寺にも紙札が奉納されていた。

松江市内では決められた六地蔵に札打ちをするというおおまかなルールはあるものの、自分の菩提寺などにも奉納するケースもあるのだろう。

もしかしたら竜覚寺が二番三番兼務なので、竜覚寺一ヶ所に二枚貼るのも芸がないので何となく他のお寺にも貼ってみようか、と思う人がいるのかもしれないですね。




大覚寺から松江大橋を渡ると飲食店が集中するエリアになる。

その一画にある大念寺柳地蔵



ここが四番目の札所だ。




雑居ビルの1階が地蔵堂になっている。



何となく味気ない風情だが、市街地のお寺だから仕方がない。




地蔵堂の傍らに札打ちの場所があった。

心なしか他の札所に比べて紙札が少なく、活気がないような気がした。

街の真ん中だから一番盛んだと思ったのだが、逆だったか。

多分理由としては専用の駐車場がないからだと思う。




厨子の中にお地蔵さんがポツンと座っていた。




次に訪れたのは法眼寺

五番目の札所である。



この寺は松江城の西に位置し、紫陽花と松江藩主松平家の菩提寺として有名な月照寺のすぐ北側にある。

この寺にも藩家老の墓などがあり、本堂の建物などもそれなりの歴史を感じさせる佇まいとなっている。




肝心の札打ちだが、こんな感じ。




小さなお地蔵さんの祠にびっしりと札が貼られている。

あ~、すごく良い感じのモッフモフ具合ですね。




いつも言っているが、一枚一枚に込められた祈りが集まって奉納した人が想像し得ない光景が生まれる様が堪らなく好きなのです。

それは一人の祈りだけでは成し得ない、かといって一人一人の祈りが無ければ成立しない。

個人とその集積が奇跡のような光景を産み出すことに信仰というものが産み出すチカラの不思議さを私は感じるのです。



だから一体のお地蔵さんに縋るように貼られた大量の紙札が風に揺られている様を見ていると無性に心が動かされるわけです。




奥の観音堂にも札打ち場があった。

観音堂なれど打ち札は全て南無地蔵願王菩薩だった。




で、いよいよ最後の札所、浜佐田地蔵堂



市街の西に位置し、宍道湖畔を走る国道から一本中に入った静かな住宅地にある。




ここにもびっしり札が貼られていた。



さて、これにて島根の札打ち習俗のレポートは終わるが、実はこの後さらに壮絶な札打ちの現場を目の当たりにすることになる。

そちらは続きの鳥取編にて御覧くだされ。




続いて鳥取編をお楽しみくだされ

参考;しまねタンサック

2021.06.
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