宮古島に超パワースポットがある、という噂を聞いた。
不肖俺、これまでパワースポットと称される場所にも随分行きましたよ。しかし日頃の修行が足りないのか、パワースポットの概念自体を勘違いしているのか、それとも神社仏閣に行く目的世間様と根底から違っているのか、原因は不明だが、崇高なるパワー的なモノをまっっっっっったく感じたことがないのである。
これは由々しき問題ではなかろうか。
少なくともこれだけ神社仏閣を巡っていたら、神仏に癒されたりほっこりしたり幸せになったりしなきゃマズいのではなかろうか?
最近あちこちから「パワースポットに造詣の深い小嶋独観センセイにお勧めのスポットを紹介していただきたく…」的な依頼を受けるのだが、断るどころか基本シカト。面白そうなので唯一受けたのは「下半身パワースポット」という週刊大衆の記事ぐらい。
こんなことでは大人としてイケナイのではなかろうか。
かくなる上は世界屈指と称されるパワースポットに赴いて宇宙エネルギーを全身に浴びたのち、瞳孔全開で「俺が宇宙で、宇宙が俺で…」的なコメントとかを自信満々に吐ける立派な社会人になるのだ!俺!
…てなわけで十数年ぶりの宮古島である。
前回の宮古島滞在では、土木作業員しか泊まっていないリゾート感ゼロな民宿に1週間居てかなりブルーになった記憶しかないのだが(あと朝食が毎日同じメニューでかなり滅入った事とか)、その際にも不思議な庭がある、という噂は聞いていた。
聞こえてくる噂は「おじいさんが一人で石を積んでいるらしい」「宇宙と交信しているらしい」「面接をして合格した人だけが入れるらしい」などなど…
かなり敷居の高そうな場所である。
果たして本当にそんな場所が存在するのだろうか?ひょっとして宮古島に伝わる都市伝説なのでは?
てなことを思いつつの十数年。宮古島を再訪することになった。
で、今回の訪問にあたりこの不思議な庭について調べてみると以前は全く情報などなかったのに今やスピリチュアル系の方々のブログなどでかなり取り上げられていてチョットした人気スポットになっているじゃないか。
よし、これで俺もパワースポット開眼間違いなし、だ!
てなわけで宮古島である。
空港の近く、サトウキビ畑が広がる典型的な宮古島の風景の中に鬱蒼とした森がある。
そこが超パワースポットの入り口だった。
「許可を得てお入りください」とある。その入り口の脇にある建物に行ってみる。
中には石庭を造った新城定吉さんという方がいらっしゃった。
著作のぶっ飛んだ感じから滅茶苦茶エキセントリックな人物かと思ったら意外と物静かな人物だった。
庭を見学したい由を告げると意外とあっさり許可が下りた。
注意点としては○○には靴を脱いで入ってください、との事。
この○○が何を意味するのか全く判らないので念のため石庭全域を素足で歩いてみた。
鬱蒼とした森には本土ではあまり見られない植物が密生している。
その緑の濃さに既に不思議なパワーを感じるような、そうでもないような…
ガジュマルの根元には何やら人工的に組まれた階段の残滓のようなものが見える。何かを作ったあと放置された感じ。
元々この地は拝所があったのだというからもしかしたらその跡なのかもしれない。
そこで早くも超常現象!クラゲの霊が!
…と思ったら蜘蛛の巣が水に塗れて風で揺れていただけでした。
思えばここの庭には異様にでかい蜘蛛があちこちに盛大に巣を張っていたなあ。
そんなこんなで進んでいくと森が途切れ視界が急に広がる。
うっほ!
これは凄い!
まるで異星人の遺跡のような、蟻塚のようなアンフォルメルな塔状の石が大量に林立しているではないか。
ココに見える石は全て新城さんが地中から掘り起こして積み上げたものである。
写真では判りにくいかもしれないがその数と規模は圧倒的だ。
これに何の意味があるのか、については追々考えるとしてまずはこの積み上げられた石の群れを観察してみよう。
何かのカタチに似せようとかそういう意図はないみたい。
宮古島は元々珊瑚礁隆起の島ゆえ表面の土を掘るとその下の石はほぼサンゴで出来ている。
その石(というか元珊瑚)を堀り上げ、積み上げたものが並んでいるのだ。中には数トンはあろうかという巨石もある。
これをほぼ人力で掘り上げたというのだから驚く他ない。
実はここを訪問する前に新城さんの著書を読んだのだがあまりにも深遠過ぎてこの庭園の意味どころか氏の仰っていること自体がよく理解できなかった。
ちなみに訪問時に新城さん宅でもう一冊別の著書を購入して読んでみたのだが、これまた凡人の私にはサッパリでした。
だって冒頭から「バミューダ海域で吸い込まれたエネルギーを噴出しているのが宮古島なのです」てな話なんだもの。
困っちゃうなあ。
そうこうしている内に巨石に囲まれてそこだけがスッポリ開いている平地があった。
そこがこの石庭の中心部なのだ。今思えば新城さんはこの中には靴を脱いで入ってくれと言っていたのか。
世界屈指のパワースポットのキモ、地球のエネルギーがココに集中して溢れ出しているのだという。
よし、俺も地球エネルギーを浴びて浴びて浴びまくるぞ〜!待ってろよ〜地球!
で、芝生に座って瞑想してみる。
1分経過…地球の神秘なるパワーを浴びて生まれ変わるのだ!俺!
2分経過…おおおおっ!どこからともなく「何か」が降り注いできたような感覚が…
3分経過…ああああっ!宇宙の彼方から熱い「何か」が後頭部に!キテる!キテる!キテる!段々意識が遠のいてきた!
これはもしや…
5分経過…間違いない!これはっ…アチチチ…熱中症かっ!
真夏の宮古島で昼間に、しかも日向で瞑想するのは超危険だということを悟りました。
地球のエネルギーを感じる前に太陽エネルギーにやられちゃいました。トホホ…
てなわけでここからは宇宙のパワーとかエネルギーとか、そーゆーのは置いといて、新城さんの努力の痕跡をトレースしながら庭内を巡ることにします。
新城さんがこの庭を造り始めたのは1980年。
いつもつまずいている石を地上に引き上げようとしたのが最初のきっかけだったという。思いのほか大きなその石は結局7日かけて掘りおこされたという。
その作業が新城さんにとって天啓にも似た宗教的体験となり、次々と巨石を地中から引き上げる作業を続け、宗教的体験を蓄積していくのである。
ここで思い出されるのがフランスにあるシュヴァルの理想宮。つまずいた変な形の石を掘りおこすところから始まる自己完結型ユートピアの創作。あまりにもよく似たハナシではないか。
この石庭のコンセプトは私には上手く説明出来ないが(つか理解出来ないが)、新城さんと地球の交感作業の結果ようなもので、庭を見たり歩いたりして楽しむというよりは新城さんの作業のプロセス(それはつまり宗教的行為に他ならない)を感じるための「場」なのだろう。多分。
中にはキャプションというか格言じみたメッセージが刻まれているものもある。
これは掘り起こす作業をしている中で天啓を受けたりエポックメーキングとなった石などに付けられているようだ。
天体と人間才能は無限大である。
…凡人以下の感受性しか持ち合わせていない私には天体の大きさなど実感できないが、人の才能に限界がないことは少しだけわかるような、わからないような。
石庭にある岩にはこうして蘇鉄が植えつけられていることが多い。
こんなんで蘇鉄が育つんかい?と思うものの、過酷な環境に強い植物ゆえ案外しっかりと根付いている。
これこそが新城式オブジェの真骨頂。無機物と有機物の共生である。
中には意図したのかどうかは判らないが、結果擬人化してるっぽいものもある。
奥へ奥へと石庭は続く。
これだけ大量の石を独りで掘り起こすとは…
忍耐と努力は才能を産み育てる母である。
…ハイ、肝に銘じます。
無数の積み石の群れが延々と続く。
ただただ石を掘り起こし、立てる、積む。そのミニマルな作業を淡々と続けていく生き様には感じいるものがあった。
今日と明日の間に何の差もない、ただただ黙々と作業を続けていくだけ。
今日やることは明日しない。明日やることは今日しない。
何でもかんでも右肩上がりの二次曲線ばっかりがもてはやされる世の中だが、毎日一歩だけでも前進すればそれで充分なのではないだろうか。
あれもこれも望んでいたら不満しか感じない、そんな事をこの石庭を歩きながらチョットだけ思いましたよ。
毎度の事ながらパワーは全く感じなかったが、新城さんの生き様を感じさせてくれる場所ではあった。
石庭の隅には石と蘇鉄が合体した野趣あふれまくりの盆栽がたくさん植えられていた。
で、結論。
私は「目に見えるものしか信じません」的なリアリストではないものの、基本「ホラ、ここってパワースポットじゃないですか」って何の根拠もてらいもなく言える人間にはなれそうもない。
ただ、強く感じたことがひとつだけあるぞ。
人間の持つパワーとか人間の持つエネルギーとかの方が宇宙パワーより遥かに凄くないですか?って事。
だってひたすら地中から石を掘りあげて黙々と積み上げる作業をする力が、人にはあるのだから。
パワスポで癒される人を否定するつもりはありませんが、少なくともワタシには人間の発するパワーの方が魅力的だし惹きつけられるしカッコイイし面白いし元気が出るし興味深い。
つかこの庭に来て地球のパワーが凄い云々とか言う前に新城さんのパワーが凄い!が先でしょ。
そういう意味ではパワースポットなのかな。尤もヒューマンパワー、の方だけど。
※ここは新城さんが善意で公開している個人所有の庭です。貴君がこのような場所をどう思おうと勝手だが、最低限、節度と敬意と愛を持って接していただきたい。無断で入ったりせぬよう。節度と敬意と愛、ですぞ。
参考文献
宮古島の神秘な石庭 宇宙に抱かれた石庭 人間は無限大
いずれも新城定吉著
2009.08.
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