宗教的にいえば黒住教や金光教といった新宗教の発祥地、そしてやけに三重の塔がごろごろ転がっているところとして有名な岡山であるが、どういうわけか牛に縁の深いお土地柄でもある。
元々岡山藩が農業振興策として農家に牛を飼う事を奨励したのが始まりかと思われる。
言い伝えによれば件が産まれると大きな飢饉や戦争が起こり、それを予言し、実現されると死んでしまう。この話、戦時中辺りまでは件の話は結構真剣に信じられていたらしい。
小松左京の「くだんのはは」や近年では岩井志麻子(岡山出身)の「よって件のごとし」なる小説があったりと昔話として片付けるにはあまりにもリアリティがありすぎる話なのだ。
その他、境内には風を祀った長床という壁のない能舞台のような建物や屋外の護摩炊きの場所などがあり、いわゆる普通のお寺とはちょっと違い、アウトドア指向の宗教なのかなあ、という印象を持った。
日本すきま漫遊記の「福田海」の項にかつてウルトラマンエースに鼻ぐり塚が登場したというくだりがあったので見てみたのだが、鼻ぐりを盗んだ蟹江敬三(若い!)が牛怪獣に変わってしまうという話で、何故か牛窓のオリーブ園が出てきたり、火曜サスペンスの★★湯けむり殺人事件〜平和な温泉街に起こった事件!花嫁の怨念がこもる温泉トリック!みたいな観光地タイアップ臭が漂う内容だったが、肝心の鼻ぐり塚はこんな派手な色ではなくて真鍮製のもっと地味〜なものだった。それでも規模としては現在のモノとほぼ変わらず充分迫力はあったけど。ちなみにエースの中では怪獣を鎮めるべく鼻ぐり塚の前でお焚きあげをやっているが恐らく福田海の大祭か何かの映像をそのまま使っているのだろう。修験道のような格好をしている人達が鼻ぐり塚の前で拝んでいる映像はコドモ番組の域を越えてて凄かったです。
炎天下の中、作業員の方々が何故か竹を燃やしていてお焚きあげもビックリのでかい焚き火をやっていて、時々竹の破裂する爆音が響き渡り天には煤が舞い上がり、かなりシュールな雰囲気での参拝でした。
そういえば桃太郎の本拠地としてここ岡山と香川は激しいバトルを繰り広げており、それに愛知の犬山まで名乗りをあげたりして桃太郎界は混然とした状況をていしているが、そんなに欲しいか、桃太郎権。
さて、その吉備津神社だが「彦」の方がいかにも整然とした神社であるのにたいして、こちらはあちらこちらに「珍」な香りを漂わせている。
吉備津造の本殿なんかは国宝だったりして結構渋い雰囲気なのだが、その脇にはこんな素敵過ぎるおみくじが。
瀬戸内航路の風待ち港、牛窓。
その昔、神宮皇后がこの海を通りかかった際、牛鬼に襲われ、住吉大明神がこれを退治し牛鬼が転んだので「牛転び(うしまろび)」、これが転じて「うしまど」になったのだそうだ。ここにも牛信仰の影がちらほら。
で、今村昌平のカンゾー先生のロケ地巡りでもしようかと思ったのだが、あまりの暑さに降参。
冷房の効いてそうな屋内施設に行く事にした。牛窓海洋文化館である。
ここのメイン展示はだんじりと朝鮮通信使。
船のようなだんじりは現物が2点展示されていた。
麒麟と天狗である。天狗は何故か外人顔。剣道の面が意味不明でよろしい。
牛の周りに敷き詰められているのは砂利じゃなくて10センチ程の牛の焼き物である。もちろん備前焼。遠目に見ると砂利の山のようだが一個一個きっちり牛型である。
玉野の田井港からは目の前。わずか数分の船旅である。距離にして1キロ位だろうか。
頼りは島の超簡単な地図だけ。港は南端。取り敢えず北に向かって進む。途中、人が住んでいるらしき人家があった。
聞くところによると以前住んでおられた方が別荘としてたまに帰島するそうだ。
涅槃像の場所を聞こうと思ったが留守のようだった。犬小屋に犬はいるのだが。
そんなこんなで20分程歩くと寺に着いた。看板を見ると日蓮宗の寺である。無論人はいない。
隣には神社と稲荷社がある。
涅槃像、近し!の確信を持って先に進もうとすると・・・
・・・道が木で塞がってました。
仕方なく、海岸沿いに出て浜を歩く。御影石が崩れた岩の浜を歩いていると気分は猿の惑星のラストシーンである。
猿の惑星では砂浜に自由の女神を見つけて絶望していたが、こっちは涅槃像を見つけて歓喜する予定。
途中浜がとぎれている岩の部分は海に落ちそうな際どいところもあったが何とか島の北端まで着いた。
あれっ・・・ない。
事前のリサーチで見た涅槃像の写真からして見落とすレベルの大きさではないはずだ。
かといって、今歩いてきた以外に道はないようだし、一体どういうことなのだろう。ここから先はちょっと海沿いに行けそうもないし、それよりも暑いし疲れちゃったし
・・・さて、と。
探してもないものは仕方ないので船が来るまで海水浴だ〜(何故か水着持参)。
帰りの船で船頭さんに聞いてみた。
「あのう〜日蓮さんの涅槃像なんですけどお〜」
「え、アレ爆破しちゃったぞ」
ガビョーン!
キッツイ岡山弁の船頭さんだったので100%は聞き取れなかったので、正確性を欠くが、この涅槃像を独りで彫っていたおじいさんがある日突然涅槃像を爆破してしまったというのだ。にわかには信じられない話だが。船頭さんはそういっている(多分)。
以下、かなりこちらの岡山弁ヒアリング能力が低いため想像と妄想が半分くらい混じるが御容赦願いたい。
おじいさん、自分が死ぬまでに完成するのがとても無理だと悟ったらしく、いきなり爆破してしまったらしい。
その後、おじいさんは悔いを残しながらなのかそれともさっぱりしたのかは知らないが鬼籍に入る。かなりの高齢だったようだ。
でも・・・
完成しないからといって破壊するだろうか。しかもノミでコツコツ刻むよりも爆破の方が大変じゃなかろうか、高齢なのに。
いずれにしてもこのじいさんの一生の激しさは何だろう。
彫って彫って彫りまくって最後は爆破。あまりにも凄すぎやしませんか。
そんな夢の残骸が下の写真。
波打ち際に瓦礫がある。その上に石柱が乗っている岩がある。その辺に日蓮さんの顔があったそうだ。残念ながらきれいさっぱりなくなってしまったようだ。
あ、さっき俺が猿の惑星気分に浸ってたトコじゃねえか。
散々探してここまで見事にスかされた物件も珍しい。
やっぱ下調べは大事っつーことですね。
2002.7.
珍寺大道場 HOME