椿大師は国東半島の旧真玉町にある寺だ。
チョット寄り道しながら行きましょうか。
国東半島をドライブしているといきなり神社や祠が現れる。
改めて信仰の篤い土地なのだなあ、と感心する。
↓こちらはたまたま通りかかったお稲荷さん。
このように地形的な特異点が信仰施設として祭られている。
また、磨崖仏の里としても有名な地域である。
ぬあんとキリスト教による磨崖聖母まであった。1995年の作。
国東半島は八幡+天台信仰が基本の六郷満山文化だけでなく、大分県の北東部であると同時に瀬戸内海の西側でもあたるため弘法大師信仰も根強い。
そんな弘法信仰の中心地が椿大師なのである。
約1200年前、弘法大師と思しき旅の僧がこの地を訪れたときに杖を地面に刺し、そこから泉が湧き出てさらにその杖から芽が出て椿の木になった、というサイキックパワー全開の説話が基になっている。
参堂からしてこの有様。巨大弘法に赤い塔、無数の看板…
もう、この眺めを見ただけで何だかワクワクしてくるじゃねえか。
…しかし実際にこの地を訪れると、その事情はなかなか複雑なのである。
そもそも椿大師と称したものの、このエリアには3つの寺が建っているのだ。
ひとつは参堂の左手、巨大弘法像を擁する「椿弘法大師元祖の寺」椿光寺。
もうひとつは参堂の右手、赤い塔の奥にある「弘法大師ゆかりの名刹」椿堂。通称椿大師。
そしてもうひとつは赤い塔の右奥にある善通寺。通称椿観音、または椿大堂である。
この中で椿堂と椿大堂は駐車場も共用で案内の表記も共同で出しているので言ってみれば姉妹店のようなカタチなのだろうが、椿光寺に関しては一切言及ナシ。一方椿光寺にしてもすぐとなりにある椿堂と椿大堂はシカト状態。
これは本家と元祖の争い的な事が繰り広げられている、みたい。
それらが互いにエスカレートしつつ渾然一体となって結果的にこのような素晴らしい光景を生み出したのだろう。
人の心のドロドロした部分は げに美しいものよのお〜、ホーッホホッホホ…
事の真偽はともかくとして(何せ、千年以上前のハナシですから)、微妙なライバル心がバチバチ飛び交う雰囲気の、ある意味リアルにホットな信仰ゾーン、とりあえず椿堂から向かいますか。
印象的な赤い塔の脇を通って椿堂へ向かう。
塔と言ってはみたものの、実際には崖にせり出している椿大堂(善通寺)の鐘楼堂を支えている部分である。
下から見れば塔のようにも見えるが鐘楼堂の基壇、と言った方が正確ですね。
となりには巨大なハリボテの剣がある。もちろん不動明王の持つ剣なのだが、裏に回ると剣の持ち手の部分が祠になっている。
そんなこんなで山門を潜ると正面に椿堂(椿大師)の本堂が見えてくる。
この椿大師伝説にまつわる呉越同舟の複合宗教施設群のキモである事は間違いないだろう。
椿堂の軒下に下がっているモノを見てギョッとした。
ギブス、コルセット、松葉杖、そして大量の髪の毛。
髪の毛はすべて女性のものだという。その数3000人分。
自分の髪の毛をバッサリ切って奉納するわけだから相当の覚悟があっての願かけだったはずである。
ギブス、コルセット、松葉杖は他の寺でも見た事はあるが、これほど大量に奉納してあるところも珍しかろう。
しかも本堂の正面の軒下って…一番目立つところですやん。
軒下とはいえ吹きさらしに近い状態で奉納されている髪の毛、キューティクルは失われて熊の剥製みたいになっちゃっている。
そのもっさー具合が余計に凄みを増している。
国東半島における大師信仰の本拠地、というよりも国東民間信仰の牙城といった方がしっくりくる。
椿堂の右側には「弘法大師ご修行のご霊窟」という奥の院の入口があった。もちろん行ってみますとも。
大師、観音、地蔵…様々な石像が並ぶ回廊には供え物が置かれ、向かいの格子には縛り付けられたおみくじが年数を重ね飴色に変色していた。
さらに進むと、様々な奉納物がモッシュ状態に!
足腰の病にご利益があるのだろう。
大量の松葉杖、義足、人形がギッチリ薄暗いコーナーに押し込められていた。
奇しくも赤ちゃん人形と布袋サマの笑顔がシンクロしている。
その屈託のない笑いはそもそも違うベクトルを示しているはずなのに…
その先は不動明王と弘法大師の像が並んでいる洞窟風の部屋。ご霊窟である。
十数メートルもあるという大きな一枚岩の下で弘法大師が一夜を過ごしたといわれている。
いわば椿大師発祥の地であり、信仰スポットとしては最大のクライマックスだ。
さらにその先には弘法大師が湧き出させた、と言われるご霊水が。
折角だからチョットいただいたりしましたよ。うむ、水の味がする。
異界を巡り終えると再び椿堂の前に出る。
本堂前の奉納物も相当だったが、奥の院の異界っぷりも相当だった。
だってうだるような真夏の昼下がりだというのに涼しいんだもん。
椿堂の濃い〜信仰世界に続いて椿大堂、続いて椿光寺へと歩を進めようか。
椿大師;その2に続く
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