慈雲閣;その1



香港にかなり変な寺院があるという噂を随分前から耳にしていたので行ってみることにした。

その名は慈雲閣。

場所は以前訪れた占いのメッカ黄大仙廟の1キロほど北。

坂道をクネクネとミニバスが行き来し、高層マンションが立ち並ぶいかにも香港らしい風景の中にこの寺は現れる。

この辺りは九龍の市街地の北端といえる場所だ。



ご覧の通り寺自体が斜面、というか小高い山塊の上に建っている。

ちなみにこの裏はさらに山になっていて突如無人の森となる。門前に聳え立つ高層ビル群とのコントラストが強烈だった。

黄色い瓦を多用し、かなりゴージャス感を高めている割には斜面をコンクリで固め、無粋に緑色でペイントするバランス感覚はある意味香港っぽいかも。ちなみに創建は1980年代だとか。

何となく全体像の見え難い寺だなあ、というのが入口から見た第一印象だったが、結局中に入るとその印象はさらに増す事に。

ギリギリとはいえ九龍の市街地に位置する寺としてはかなりの規模だと思うが、その割には観光客が訪れる様子もないのは、やはりこの外観が影響しているのでは…



入口には勿論線香オババが「アタシの寺にようこそ」みたいな顔して線香を売りつけてくる。

まあ、入場料代わり(別にこの線香代がこの寺に渡る訳ではなかろうが)に買っておく。



で、やけにカラフルな階段を数段上るといきなりコンクリインド人がお出迎え。



髭にターバン。シーク教徒、ということになろう。

    

ここ香港では何故かインド人(主にシーク教徒)が門番、という場合が多い。

ホテルのドアボーイ、ショップや両替屋の門番、おまけに供養の為に燃やす紙の家である冥宅さえも門番はインド人だったりする。

このインド人=門番という図式には何やら香港独自の歴史と図式があるのだろうが、ここで考えていても先に進めないのと、あまり立ち止まっていると線香オババが階段を駆け上って来て「ま、まだ線香足らないのけ?もう一把買うけ?」とか言ってきそうなので、今後の宿題ということにして先に進む。

竹をモチーフにした瓦格子も印象的だが、それより人研ぎのラスタカラー階段がグッときた。

実はこの階段を上っていく途中に休憩所があるのだが、そこの椅子も全て人研ぎで仕上げられており、エキセントリックなだけでなく何となく薄暗い、それでいて懐かしい雰囲気だった。




そんな階段を上っていくと表の通りを見下ろすように神様の並ぶ古國神廊という部屋がある。



内部は一転してタイル張りの明るい空間で、神様たちは道の向かいの高層ビル群を見つめている。



風水を気にする香港の人達は閻魔サマや牛頭馬頭に睨まれる高層ビルに住むのって嫌じゃないのかなあ。

    

…それとこんな神様とか…





階段を上りきったところには龍の彫刻を中心とした東屋がある。



この寺は高低差があり非常に複雑なのだが、暫定的にこのフロアを基本レベルとしておく。





東屋から奥に進むと牛を曳いた男と着飾った女の邂逅の図。この寺に伝わる霊牛伝説にまつわる七夕の逸話かと思われる。

それはそれでロマンチックだし大変結構なのだが、足元の鳥の多さは一体どうしたことか?



「お、織姫殿」「ギャーギャー」「け、牽牛さま」「んも〜」…雰囲気ぶち壊しですやん…


その先には人工洞窟を模した祠が。




さらに進むと変な石が並んでいる。先程の人工洞窟の上にもあったぞ。



一見、まだら模様の石かと思ったが、よく見れば…

干支の模様が浮き出た自然石じゃないか!

    

…あ、でもよく見るとあまりにも良く出来すぎというか、そりゃないだろ、と思えるほどわざとらしいんですけど…




小さな祠や祭壇、納骨堂などが点在している。今思えば道教寺院なんだと思う。多分。



時節柄、納骨堂には何組かの家族が墓参り、というか納骨堂参りに訪れていて、先程の東屋で龍に睨まれながら料理を広げていた。


さらに奥に行くとパッと視界が広がる。

牛に乗った仙人、その背後の壁画、そしてその先に現れたのは…




おお!

コンクリや自然石を貼り合わせて造ったグロッタじゃないか!



前回の香港レポートでも何箇所か紹介したが、香港の寺廟にはこの手の人工洞窟や築山が非常に多い。

勿論タイガーバームガーデンのおどろおどろしいカラフルなコンクリマウンテンもその延長線上にあるといえよう。

ここの中華グロッタの特徴は地形の関係上ほぼ垂直方面に展開しているのだ。人工崖ともいえよう。



ガウディの建築を思わせるような自然界ではあり得ない造形

盆の中に自然石を配して立体山水画をつくる盆景というものがあるが、その盆景の巨大版を見ているような不思議な光景。




いってみれば巨大なジオラマなのだが、合間合間にホンモノの樹木や滝が配してある。

グロッタも自然石とコンクリが絶妙に組み合わさっていて、近くで見ないとその境目がわからない。



そんなリアルとファンタジーが入り混じった景観を見ていると、虚実の境目が曖昧になって頭の中がグニャグニャしてくる。


やや高いところから見ると全体的にこんな感じです。ツギハギで見難くてゴメンね。




滝壺で飼われている金魚。そしてまた例の石が。



コレとて最早、自然石なのかつくりものなのか、そんな事はどうでもいいのかもしれない。





グロッタの一画に洞窟がある。地蔵府と書かれている。ということは…アレですね



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