さて。
どこから話をはじめたらいいものやら…。
東日本大地震から半月も経たないある日、私は広島県の山中にいた。
東日本ではほとんどの人が朝から晩まで地震関連の話しかしてなかった、そんな時期である。
精神的に特殊な時期だったからなのか、やけに訪問時の記憶が混濁している。いや単に前日広島で飲みすぎたからかもしれない。
いずれにせよ私の中でこの安福寺というお寺は未だに評価の定まらない、整理の付かない、でもやけに面白い印象だけが残っている、不思議な寺なのである。
それは奇しくもこの寺の境内の様子と全く一緒なのだが。いや、もしかしたらお寺がそんな按配だったから私の印象もとっ散かっているのかもしれない。
というわけでだだらに思いつくまま、この寺の様子をお伝えしよう。
場所は広島県府中市の上下町。のんびりとした山間の町だ。
長閑な道を進むといきなり大きな看板が目に飛び込んでくる。
その後ろには
カラフルな水車があり、山里の中にあって一際異彩を放っている。
日本すきま漫遊記で
その概要は抑えておいたつもりだが、まさかこんなアグレッシブな陣容だとは!
看板には
安福寺花菖蒲園とある。
この寺の菖蒲園で、時期には大勢の観光客が訪れる、らしい。
訪問時にはアヤメのアの寺もなかったが、私としてもわざわざアヤメを見に来たわけではないので全く問題はないのである。
どちらかというとこんな歪んだ鏡のある六角堂などに心ときめかせていたりするわけで…。
前庭のようなところにはいきなり
ミニ五重塔と中華風あずまやがある。
ここも菖蒲園の一部なのだろう。
水が入れば五重塔の建つ緑色の部分は島になるのだろう。塔の足元には陶器の亀、周辺にはコンクリの鶴や水鳥などが置かれていて
独特の縮景が成されていた。
矢印に導かれるまま本堂へ。
つかこの矢印とかも要らないっちゃあ要らないよね。所々に
過剰なまでの蛇足系サービス精神がにじみ出ている。善き事哉。
本堂「だけ」はいたって普通。
隣に目をやれば丸い門。中華系の寺院でよく見かけるデザインだ。
その向こうにはカントリー風の小屋が。つくづく展開の読めないお寺である。
本堂脇のガラス。釣鐘型の意匠が素敵。
境内の一画にあった水子供養スペース。
そろそろお気づきであろうが、このお寺には要所要所に手作り感満点のエレメントと中華風の建造物が入り混じって独特の世界を構築している。
それは過剰なサービス精神から発生した素敵な光景だ。
…と、ここまでの部分の一応の結論を得たところで、いよいよこの寺の怒涛のカオスっぷりをご堪能いただこう。
本堂のあるエリアの南側にはトタン屋根の細長い建物が並んでいる。
足を踏み入れてみると天井からは無数のひょうたんが吊り下がっている。唖然。
ここがこの寺の名物、
ひょうたん資料館である。
資料館とはいうものの展示はかなりカオティックな状態で、天井から吊り下げられたひょうたんとずらりと並んだ記念写真、各観光地のちょうちんなどが赤い鉄骨トラスの間を縫うように並んでいる。
ああ、段々クラクラしてきた…。
ここの前住職であり、この資料館やアヤメ園を作ったお方。
アヤメ寺のひょうたん和尚として活躍されていた浜野師。平成8年に亡くなっている。
バイタリティ過剰な感じが写真からでもビンビン伝わってくるではないか。
そんなひょうたん尽くしの展示が続く。
手作り感満点の資料館だが、展示されているひょうたんは見事だ。
これまでの経験からすると、ひょうたんを展示している場所は何故かケレン味の強い場所が多いような気がする。
それはひょうたん愛好家の世界が学術的でもなく、オーガナイズされているわけでもなく、経済的価値が確立しているわけでもない、そして独自の解釈が入り込む余地がある世界だからだと思う。
例えば刀剣博物館とか陶芸博物館といった趣味の王道!的な資料館がこんな按配だったら訪問した人はマジでビビるでしょう。
ところがことひょうたんに関しては何となく許せちゃう。むしろゆるーいペーソスが支配するこういった空間こそがひょうたんコレクターの生息空間の特徴とすらいえまいか。
その辺のひょうたん趣味の曖昧さとこの資料館の展示の緩さが見事にシンクロしているように思える。
展示されていたひょうたん人形の中にに瓢箪和尚というものがあった。生前の前住職をイメージしたものなのだろうか、似てないけど。
上を見上げれば手作りの菖蒲が一年中咲いてます。
おおお!Hひょうたんコーナーっ!
エロチックな形状のひょうたんがズラリと勢揃い。
↑こんな感じ。
さて、思いがけず大量のひょうたんを鑑賞する羽目になったが、これでカオス展示が終わったわけではない。
いやむしろココからが本番といっても良かろう。
ひょうたん資料館の展示が終わると次に現れるのは有料の資料館。
百円を筒に入れて電気をつける。もちろんセルフ方式だ。
明るいひょうたん資料館とは打って変わって外光の届かないダークな雰囲気に転調する。
恐る恐る先へ進むと…
いわゆる民俗資料館の類なのだろう。
たくさんの古民具が並んでいた。
そして何と言っても注目なのはおかめやひょっとこのお面をかぶった人形。
これらが実際に民具を扱っている風に展示されているのだ。
単に古民具を展示するだけよりも具体的な使い方が判るので良い展示方法だとは思う。
…思うが、人形の顔がおかめとひょっとこ、というのは…。
市販の人形などもあり、中々油断できない。
ひょうたん資料館と同様にカオス展示だが、薄暗くダークな雰囲気に満ちている。
一旦外に出るもすぐ次の資料館へ。
今度は
戦争資料館。
ここでも戦争未亡人や兵隊さんなどの人形が当時の服装に身を包んでいる。
さすがにシリアスな展示だけに先ほどのようなお面の人形はいないか…
…あ、いた。
目がまん丸のヒコーキ乗り。
卓球の愛ちゃん(の子供のころ)みたいな女子挺身隊。
そして戦時中の暮らしコーナー。
人形の頭部は
全部ひょうたんである。
そして原爆。どおくまん先生の絵のようなキノコ雲が描かれている。
被爆した広島の町の再現。
アアひさんざんこく二度…
…とあるが、残念ながら資料館全体がカオティックなので被爆の悲惨なシーンも、あまり目立たない。
この土地でこの題材だけにかなり気合込めて作ったであろうに、残念でならない。
ハリボテの牛を経由して…。
先ほどの民俗資料館に入りきれなかった古民具を展示する第二資料館。
こちらは古民家を用いた資料館だ。
蔵のような建物の中を覗くと…
またしてもお面をかぶった女性が赤子に乳を飲ませている。
お面と授乳のシーンとの食い合わせはメチャクチャ違和感があるぞ。
ある意味、この寺の無意識過剰な部分を最も象徴する展示だったように思える。
これにて資料館はお終い。
普通の資料館や博物館の色々なお約束ごとをブッちぎっているところに清々しさを感じた。ような気がする。
資料館を出てもこのお寺のサービス精神は尽きることはない。
見学お疲れ様でした、とばかりにコンクリのお爺さんがお出迎え。
さらに青と白の瓦を土手に刺して作られた富士山。
どうしてこの色をチョイスしたのか疑問が残るコンクリ七福神
ひょうたんばしという鉄製の太鼓橋。
戦争資料館の外観。
農家。
ここを訪問した際、真っ先に目に飛び込んできた派手な水車。
白いブランコ。
レインボー。
全体的にこんな感じ
あまりの珍妙エレメントが次から次へと現れるので、もうお腹いっぱいになっちゃった。
なので向こうの山に見えている竜宮門までたどり着けませんでした。
乙姫様までいたのか〜(画像拡大して初めて気づきました)。
…段々気が遠くなってきましたのでこの辺で。