会津の吊るし飾り/福島県



関脇優婆夷尊で出会った衝撃の吊るし飾り。


しかしよくよく考えてみたら似たようなものを他でも見たことがあった。

酒田ではこのような吊るし飾りを傘福と呼んでいた。


(ロケ地;庄内)

他にも伊豆稲取の吊るし雛や福岡柳川さげもんなど似たような吊るし飾りが全国に存在していた。

あと岩手の遠野の子供の供養のための吊るしものとか。



天井から丸く吊るす、というのは何か意味があるのだろうか?


色々調べてみると面白い論文に出会った。



「産育祈願の吊るし飾り-福島県会津地方のカサボコ-」 内山大介 民具研究154/日本民具学会 2016年




内山先生によると、どうやら会津地方には関脇優婆夷尊だけでなく他にも色々と吊るし飾りがありそうなのだ。


てなわけで再び会津へGO!



最初に訪れたのは南会津屈指の観光地、大内宿

街道沿いに藁ぶき屋根が立ち並ぶ姿は江戸時代の宿場町の様子を今に伝えている伝建地区(伝統的建造物群保存地区)なのだ。




何故か一本のネギで蕎麦を食べるのだけが有名になってしまったようだが、他にも味噌や煎餅といった地味なラインナップの土産物屋もたくさんある。




で、その藁ぶき屋根の建物が並ぶ街並みの突き当りに小高い丘があり、その上に小さな子安観音堂が建っている。



そこに吊るし飾りがあるというのだ。




訪れた日は生憎の雨(結構な豪雨)で、階段を登るのにも滑らないように細心の注意が必要だ。

だったら天気のいい日に行けばいいじゃん、との声も聞こえてきそうだが、これには訳があるのだよ。後述するから待ってね。




で、観音堂。子安観音を祀っている。

屋根が草ボーボーで凄い事になっているぞ。




で、内部。

チラリと吊るし飾りが見えますね。


実はこの子安観音堂、毎月7日と17日だけ開扉するのだ。

それで、悪天候をおしてでもこの日に来たわけ。


開扉当日はママさんグループが交代でお堂に詰めている。

何をしているかというと…お茶を飲みながら世間話をしてました…。


何というか、今時の若いママさんが草ボーボーの古いお堂の中でお茶しながら世間話をしている光景が凄く面白かったです。

昔からこのように女性が集って世間話をする場所だったのだろう。




で、肝心の吊るし飾りだが、これがほとんどミニチュアの着物(赤ちゃん用の着物?)だった。

5月には地区の婦人会が主催となって観音様の祭りを行うという。

その際、安産を祈願して、願いが叶うとお礼として小さい着物を作って奉納するのだという。

見れば着物には札が付けられており、生年月日や名前などが記されていた。


ただし、関脇優婆夷尊で見られたような人形の奉納はここでは見られなかった。

つまりここの子安観音堂は安産祈願に特化した場所で、子宝祈願は請け負ってない、ということのなるのだろうか?




観音堂から見た大内宿の眺め。

これほどの規模で古い家が残されているのは確かに珍しい。時代劇みたいっすね。




宿場町の中で一軒、ちりめんで作った飾り物を売っていた。

会津の吊るし飾りのDNAが継承されているのだろうか。







てなわけで、会津の吊るし飾りに夢中になってしまった私、翌月には猪苗代周辺の広域調査を決行してみた。


捜索範囲としては猪苗代湖周辺、湖南町、猪苗代町、会津若松市の姥堂、子安観音堂を中心に調査をしてみることにした。





最初に出会ったのが湖南町の小さなお堂。




子育て地蔵尊という。



狭い堂内には大量の吊るし飾りが奉納されていた。




ここもやはり子育てに関する奉納が為されている。




大半は千羽鶴や三角形の飾りだが、中にはくくり猿のような人形ミニチュアの着物が吊るされていた。





次に訪れたのが飯盛寺。猪苗代湖の南岸に近い寺だ。



曹洞宗の寺で、聖観音を祀っているお堂である。



堂内に入ってみると…



そこには驚くほどの量の吊るし飾りが奉納されていた。




密度としては脇坂優婆夷尊には敵わないが、奉納物のバラエティさでは引けをとらない濃度だった。




大内宿の子安観音同様、ミニ着物が奉納されていた。




人形も既製品ではなくほとんどがハンドメイドだった。




中にはくくり猿のような人形も。チンコついてますね。




一体一体個性的だ。




ヒゲ?




ドレス。




いつ頃奉納されたのかは判らないが、かなり昭和っぽいセンスだ。







これまでの数少ない事例をまとめると吊るし飾りは子宝、安産祈願がメインの奉納習俗で、願主は女性。

そして願いの対象は観音となっている(関脇優婆夷尊も本尊は如意輪観音である)。


つまり観音信仰をベースとした産育信仰なのだ。




着物の柄が堪らない!




正面にはガラスケースに入った人形がいた。





次に訪れたのは猪苗代の湖南を走る道路沿いにある小さなお堂。



天額には優婆堂とあった。

優婆尊、つまりあんばさまは観音同様、吊るし飾りの習俗の重要なファクターである。




扉が開いてなかったので、外から眺める。



数は少ないが、天井から飾り物が吊るされていた。

やはり布地のレトロっぽさが堪らない。




正面には4体の石像が並んでいた。

左2体は地蔵だと思うが、中央の像は優婆尊なのだろうか。

赤い衣を着せられているので良く判らない。

右端の石像にいたっては幕が被っていて顔すら見えない。





その後、猪苗代湖の北岸の猪苗代町を中心に、子安観音や優婆尊が祀られているお堂を巡ってみた。

しかし扉が閉まっており、中が伺えなかったところが多く、中々吊るし飾りに出会えない。

また、子安観音堂や優婆堂があっても吊るし飾りがないところも結構あった。



最後に訪れたのが秋元湖にほど近いおんばさまと呼ばれるお堂。



ここは大山祗神社の入口にある。

お堂の左奥に神社の参道が見える。




祭壇にはおんばさま、優婆尊が祀られている、ようだ。

ここも外から眺めただけなので、詳細は判らない。




天井から吊るし飾りが下げられていた。




規模は大きくなく、着物や人形もついてない。

抽象的な形状の飾りがほとんどだった。



この後、猪苗代湖の西側の会津若松市の子安観音や優婆堂を当たってみたが、吊るし飾りはほとんど見られなかった。

というわけで吊るし飾り巡りはこれにて終了。


結論として会津の吊るし飾りは猪苗代湖の南側~東側がホットな傾向にあるようだ。

今回は猪苗代湖を中心に動いたが、エリアを南側に拡大して再度調査をしてみたい。今後の課題ですな。








おまけ


紅葉の時期だったので土津神社に寄り道してみた。




その近くにあった磐椅神社




拝殿の前に鳥居杉と呼ばれる巨木があった。

かつては鳥居のように2本あったというが、左側の木は倒れてしまったそうな。




で、その杉の木の枝の又に偶然桜の木が生えてしまった。

春になると杉の木から桜の花が咲いているように見えることからえんむすび桜として有名になってしまった。






で、その杉の木の注連縄にたくさんの五円玉がぶら下がっていた。

縁結びとご縁がありますように、という事なのだろう。

じっとりと湿った注連縄と赤い糸に結ばれた五円玉。


どっちかというと呪術っぽい感じすらしてくる。



これはさすがに吊るし飾りとは関係ない…よね?





2020.10~11.
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