青森県の太平洋側に広がる種差海岸、その最北部にある
蕪島神社は
ウミネコ神社として有名だ。
島とは言うものの今は陸続きとなっていて気軽にに参拝できる。
かつては独立した島であったのを旧日本軍が防衛の要所として昭和
17年に埋め立てて陸続きにしてしまったという経緯を持っているのだ。
今ではウミネコを間近に見られる神社として種差海岸や八戸市の観光のハイライトとなっており大勢の観光客や参拝者で賑わっている。
神社に近づくとその異様さがよく分かる。
社殿の上に
大量のウミネコが舞っているのだ。
ウミネコは鳴き声が猫に似ているからその名がついているというが、成程、上空からはニャー、ニャー、と猫のような鳥の様な鳴き声が響き渡っている。
神社の上空を我が物顔で旋回するウミネコ。
この神社の創建は永仁(1296)年。良い漁場を教えてくれる神として海で拾われた弁財天を祀ったのが最初とされている。
当然その前からこの島はウミネコの繁殖地だった。
元々ウミネコの繁殖地は無人島や断崖など天敵の少ない場所が多い。
この蕪島もかつては陸から離れた無人島だったわけで、いわば
ウミネコ様の方が「先住民」だったのだ。
そこに神社を建て、さらには後世には陸続きになり、そして観光客がウミネコの繁殖地のど真ん中に来るようになったのだ。
そういう意味では色々な偶然が重なって現在の不思議な光景が出現した訳なのである。
それではウミネコが舞う神社に参拝しよう。
鳥居の前には
貸し傘がたくさん置いてある。
もちろんウミネコの糞を被らないように、とのサービスだ。
半数近くは傘を借りているようだ。
筆者は
糞など畏るるに足らず!と意味もない意地を張って傘を借りず参拝することにした。
訪れたこの時期は菜の花が満開で島中が黄色く染まっていた。
東京よりも1か月以上遅い開花である。
美しさと緊張感が共存する光景が繰り広げられていた。
神社への階段を上り下りする人達は上空のウミネコ(の糞)も気になるし足元の階段も気になるし、皆おっかなびっくりの様子。
手すりには堂々とウミネコ様が鎮座している。
人が近くにいても全く動じないのは「先住民」の貫禄か。
後方に見えるのは巨大朝市で有名な八戸港。
筆者もこの日の朝、訪れてみたが八戸市内の商店が丸ごと集まったかのような賑わいで、何と朝市アイドルまでいた。
八戸港は漁港だけではなく工場なども多く、想像していた演歌っぽい北の港町とはチョット違っていた。
階段を上りきると鎮座するウミネコ様が増えてくる。
階段脇に並ぶ燈籠はウミネコの糞で真っ白になっている。
こうして間近でウミネコを見る機会は中々ないのでじっくり見させてもらう。
目の周りとクチバシの先が赤いんだね。
よく見ると
怖い顔してるんだな。
狛犬もこの通り。
「あ~、もう!」と叫んでいるようだった。
参拝と御朱印の列を見つめるウミネコ様。
こいつら何並んでんだろう、と思っているのかも知れない。
蕪(かぶ)島、という名前から株関係の祈願をしに来る人も多いとか。
この神社は平成27年に火災で消失してしまい、その後再建されたのでまだ新しい。
ちなみに東日本大震災の時は階段の下の辺りまで津波が押し寄せて、周辺は大変な被害を受けたが、蕪島神社自体は無事だった。
それだけに火災で消失とは何とも残念な事である。
拝殿前の様子。
まんま
ヒッチコックの映画「鳥」の世界。
もちろん人間が後から来たのだから文句の言いようもないのは重々承知だが、何というかこれほど糞まみれの境内って見たことないぞ。
卵を温めるウミネコ。
境内にはこのような姿があちこちで見られた。
ウミネコは
3月から
8月にかけて島にやって来る。
4月に産卵し、卵を温め、
6月になると雛が孵る。そして雛が育った
8月になると島を去る。
というサイクルを繰り返しているのだ。
なので秋冬にこの島に来てもウミネコは一羽もいないのでご注意を。
境内の人が歩けるところは柵が設けられている。
人間の保護のためなのか、ウミネコの保護のためなのか判らなくなってくる。
少なくとも人は柵の向こうには行けないが、ウミネコにとっては柵は単なる休憩所に過ぎない。
唐破風の上にまるで彫り物のように堂々と佇むウミネコ。
ちなみに家紋の向かい鶴は八戸南部藩主の家紋で、この神社が
藩主の庇護の下にあった事を示している。
もう、ありとあらゆるところでウミネコがニャーニャー鳴いて飛んでいる。
あまりの賑やかさで段々頭がクラクラしてくる。
巣作りの材料を運ぶウミネコ。
お父さんなんだろうか?頑張れ。
この
社殿の周囲を3周廻ると運が開けるというので早速やって見ようと思うのだが、ウミネコ様が多い…。
ううう…ここを行かねばならんのかあ。
ウミネコの皆々様、失礼しますよ、っと。
文字通りウミネコの群れのど真ん中を歩く。
ウミネコ様の領域に人間がお邪魔しているのだから文句は言えない。
ウミネコにガンを飛ばされつつそ~っと進む。
とその時、「ビチャッ!」という嫌な音と感触。
あ~。
ウミネコの糞をくらってしまった~!
変な意地を張らず傘を借りていればよかった。
足元を見ると
狛犬君も顔に被弾している。
そうかお前もか、一緒に耐えようぞ、と妙な連帯感を感じるのであった。
句碑の前のウミネコ像。本物も混ざっていてカオス状態だ。
やっとのことで3周廻る。しっかりウンも付いたし、いいことずくめ…な筈だ。
神社下の岩礁にもたくさんのウミネコがいる。
年間
3~
4万羽のウミネコがやって来るという。
無事(?)参拝を終え、階段を下りる。
そうそう、みんな傘を借りた方が良いよ…。
休憩所前の広場にもたくさんのウミネコが。
この蕪島も陸続きになってからはキツネやタヌキが上陸し、被害が徐々に増えているという。
人間の都合で陸続きにされ、大勢の人が押し寄せ、天敵もやって来る。
今や島だった頃のようなサンクチュアリではなくなってしまったのかも知れない。
こうしてウミネコを間近で見られるのはそもそもアンナチュラルな光景なのだ。
この島ではあくまでも人間はオブザーバーである事を肝に銘じて頂きたい。
だから決して餌付けとかしないように。
たまには人間が主役じゃない世界があって、それを楽しむのも良いじゃないですか。