岩城修弘霊場/秋田県由利本荘市


折渡千体地蔵のすぐ近くにこんな素敵な看板が。

病気であろうがなかろうが素通りを一切許さない勢いの看板に圧倒されながら山道を登っていくと、そこには想像を絶する激しい霊場があった。

霊場主のメッセージで埋め尽くされた看板が次から次へと続く。

色々書いてあるが、一言でいえば「ここで拝めば病気が治る」といった内容のものばかりであった。

ここは岩城修弘霊場。高橋さんという人物が個人でつくりあげたオッリジナル俺様ワンダーランドだ。

ちなみにこの霊場がある場所は旧岩城町、すぐ近くの折渡千体地蔵は旧大内町、高橋さんは旧西目町の人。

これらは現在、合併で全部由利本荘市になっている。

 

西国三十三観音の札所の写真が並ぶ山道を登っていく。

いよいよ岩城修弘霊場の本丸である。

 

っと、その前にこんな凄い小屋が。

全くもって意味不明である。

口の部分は扉になっていて表情は読み取れないが、かなり無気味なお顔だち、と見た。

はね上がった眉毛などはまるでどおくまんの漫画に出て来そうな濃ゆ〜いキャラなのねんのねん。

輪郭と目と髪と鼻の穴以外は福笑いにもない摩訶不思議なパーツが描き込まれているぞ。

眉間の五角形のマーク、頬のCマーク、エラの部分にある赤いのはナンだあ?

目と目の間から突き出ているのは、ひょっとして鼻か?ええーっ!もしかしてコレ、天狗ってか?

 

裏側にはこんな素敵なお顔が描かれてました。お鼻がハートマークですね。

 

さて、ヘンテコなイラストですっかり尻小玉を抜かれてしまい、早くも腰砕け状態。

で、本丸の本堂へ。第一印象は凄くマトモというか立派なのでビックリ。

でも近付くと壁にびっっっっっっしりと高橋氏のベリーベリーホットなメッセージが書き込まれているので更にビックリ。

極太フォント行間無しの男気満点書式でしたためられている高橋式哲学のほんの一端を紹介しよう。

 

心ころころころころ心

奈可奈可わかりにくい話

癌は病気ではない

現代医学、いわゆる日本の医学者達、世界の医学者達は癌を病気だと思つている様ですが、癌は病気ではないのです。現代の医学者達は癌を病気だと思い癌を治そうと薬の開発にやつきになつておりますが薬で癌を治す事は出来ないのです。絶対に治す事は出来ないのですからむだなお金を使つて研究する事はやめた方がよいのです。癌は発生すべくして発生して来る事もあるのです。現代医学では癌は発癌物質により発生して来る様な事を言はれておりますがこの地球上に発癌物質と言うものはないのです。絶対にないのです。癌の発生原因は我々人間の目で也、機械やレントゲン等では絶対に永遠に見る事の出来ない我々人間の心(精神、魂しい)、の中から発生して来るのです。(以下延々々々と続く、原文ママ)

 

・・・もう、この辺でいいですかあ?続きが読みたい方は実際に岩城修弘霊場に行ってじっくり読んでみて下さい。

と、まあ、こんな感じで主に病気に関して様々なメッセージが書かれている。

 ま、色々書いてあるが一言でいえば「病は気から」という事ですな。

 

軒下には古今東西の仏教寺院や仏像、浮世絵などのカラーコピーがビッシリと貼付けられている。

 

隙間という隙間がコトバで埋め尽くされたその本堂はさしずめ耳なし法一建築とでもいうべき驚異の建物だ。

それらの様子はまるで主義主張が建物の一部分であるかのようにすら思える。

言語化不可能な教義の深浅さや壮大さを視角表現化するという古今東西の宗教表現のお約束を越えた物凄く直接的な表現である。

 

で、本堂の内部。

 

中にはメッセージこそ少なかったが、様々な奉納物と古今東西の仏教画が渾然一体となって怪しげな雰囲気を醸し出していた。

 これだけ多くの奉納物があるということは、決して誰も寄り付かない霊場ではない、ということか。

当方、全くの健康体なので特にお願いする事もなかったのだが、取り敢えず健康キープ祈願しておきました。

あ、でも真剣に拝まないと効かないんでしたっけ・・・

 

本堂を出てもまだまだ唯我独尊ユニバースは終わらない。

本堂の右側は斜面になっており、そこにも奇妙キテレツな神仏が待ち構えている。

 

早速階段を登りはじめよう、っと思ったら何じゃこりゃ。

 

高橋氏の手形足形じゃないですか〜。

それにしても足形の屋根のセンスったら・・・

横の看板には一生懸命お祈りをしてください、とあったが、どうもカラフルで浮き浮きしてきちゃうぞ。

あ、浮き浮きしてきちゃっていいのか。病は気から、だもんね。

 

気を取り直して斜面を登っていく。通路に面して写真がビッシリ並んでいる。

一枚一枚に屋根が架けてあるという熱の入れよう。

 

上段は仏画や浮世絵、中国チベットの仏像写真などが並ぶ雑多なラインナップ(いや、高橋氏の脳内ではきちんと理由があるのだろうが)。

丸太を半分に切った下段には日本全国の磨崖仏の写真があった。

そのラインナップに思わず唸ってしまった。

・・・高橋氏、かなり詳しい。

私も一通り日本の磨崖仏は知っているつもりだったが、正直、聞いた事もない磨崖仏の写真がたくさんあった。

磨崖仏だけでなく、日本全国の霊場などの写真もあったが、これもまたかなりマニアックなラインナップ

脳内ドメスティック電波が飛び交っているだけの爺さんなどではなく、古今東西の寺や仏像にかなり精通した人物とお見受けした。

私にとっては霊場というより、とても勉強になる屋外型百科事典みたいなものでした。

 

そんな中にあった一枚の写真。

もっ、もしかしてこれが高橋氏なのか?

 

 

・・・斜面を登りきるとそこには千体佛観音堂というお堂がある。

 

 中にはたくさんの木彫の観音像が納められている。

これは大館の菊池さんという人物がひとりでつくったもので、3012体あるそうだ。

菊地さんはこれまでに28000体の仏像を彫ったという。

観音像は彫刻作品としては上手くもなく下手でもなく、味があるとでも言うんでしょうか。霊場主の高橋氏と同じ前のめり気味な波長をビンビン感じました。

お堂の前にあった小さな七福神。この辺のデザインセンスも堪らんですね。

 

濃い霊場を一巡りし、本堂脇に戻ってくると、気になるお堂が2つ。

左のお堂はヒロ子堂という。ヒロ子さんが人々の病気を治すべく云々という説明書きがあった。

中にはヒロ子さんと思しき写真、両脇に長寿の杖という仏像が刻み込まれた杖などがあった。左に架けられているのはオシラサマか。

一方、右のお堂にはお土産チックな仏像が並んでいる。よく見ると人形や土偶、ニポポまでいるじゃないですか。 

左上の黒い布を被った人形は秋田の西馬音内盆踊りの人形だろうか。そんなマニアックな人形があったんですねえ。

 

  

 観光客らしき人達が数名やってきた。「なんじゃこりゃあ」とかいいながらも「健康」はオジサマオバサマのツボ、当たり前のように足形に足を押しあてて拝み始めた。

私にとっては腰が抜ける程のウルトラ級珍寺だが、健康大好きな年配の方々は普通に受け入れていて、酸いも甘いも味わってきた人生の先輩方の肝っ玉の太さを感じざるを得なかったぞ。

 


2005.7.

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